その8 迷いながらも最初の1枚との出会い

kesaで気に入った紬を却下した時点で、私は少し自信を失いました。
というのも、次の着物旅で出かけた青山では、一つも気に入った着物に出会えなかったからです。
モリハナエビル地下の骨董街にあるリサイクル着物の店「ぎゃらりい朱」では、すてきなタマネギ柄の帯と出会い、かなり興奮したのですが、
まずは着物を決めてからでないととても帯には手を出せず、悶々とした状態に。


そんな私を、「じゃ、もう一度アンティークモール銀座に行ってみよう。」と隊長が誘ってくれました。
前回私たちがすっかり舞い上がった店以外にも、良い品を置いている店がある、と言うのです。
そういえばあの日の私たちは、「灯屋2」一軒にすっかりはまってしまい、
ほかにもたくさんあった店を全然のぞいていなかったんですよ。


今回は隊長が以前帯を購入したという「きもの青木」を重点的に見ることに。
ひょいとブースをのぞくと、ちょうど色っぽい店員さんが着物をコーディネイトしているところでした。
聞けば、歌舞伎座の3月の演目が忠臣蔵だったので、焦げ茶に大小あられを白く染め抜いた小紋を雪に見立て、番傘模様の袋帯を合わせてみたのだ、とおっしゃる。
きゃ〜〜〜!しびれました。ステキです!
まさに私たちの求めている着物はこういう世界ですよ、とすっかり心を持っていかれました。


ここで出会ったのが、薄〜〜いグレー地にやはり細いグレーの縦縞が入った塩沢の御召。
紫がかった薄鼠色の八掛けといいしっとりとした地色といい、しぼの入った生地の手触りといいすっかり気に入ってしまったのです。
御召ならば、格としては小紋と紬の中間ぐらいなのだそうです。
これなら歌舞伎座にも恥ずかしくなく着て行けるらしい。
ただ着付けてもらったところ、やはり身幅がかなり広い、そして着丈も長めです。
かなり大柄な方が着ていたんでしょうね。


お店の方は大きい分にはどうにでもなると言いますが、私が初心者なだけに、着やすさを考慮して黒猫隊長からは断然お勧め!との御墨付きはもらえませんでした。
どうしても欲しいならいい着物だとは思うけど、せめて身幅はお直しした方がいいかもしれないとの意見。
あつらえることも考慮しつつ、もう少し探してもいいのでは、との忠告を聞き入れ、その日は退却しました。


しか〜し、もうすっかりその着物が頭から離れないのです。
59,000円は古着としては微妙な金額かしら。
ちょっと大きかったけれど、お店の人がざっくり着付けてくれた限りではきれいに見えたし、
着物ってサイズは融通が利くものだって昔から言うじゃないですか。
ああ、あれが欲しい、今度行った時売れちゃってたらどうしよう。
実際一度、目の前で帯をかっさらわれる、というトンビ事件も経験したし・・・。


そう思うといても立ってもいられない。
きっと探せば探すだけ出会いはあるはずなのに、
「着物は一点もの」という罠に女たちはまんまと堕ちるんですねえ。


私は翌朝、その御召を買いに走ったのでした。