その1 着物の道は遠かった。

着物には昔から興味はありました。
幼い頃は時代劇大好き、中学時代から柴錬の「眠狂四郎」にどっぷりはまり、
ハタチを超えて出会った歌舞伎の世界で片岡孝夫(現片岡仁左衛門)に一目惚れ!
何度も歌舞伎座に足を運ぶうちに、
ああ、いつか、着物で歌舞伎を観にいきたいなあ、と夢を抱いていました。


昔の家庭は、上流ならずとも正月にはがんばって着物を着たものですよね。
私も幼い頃、ウールの絣のアンサンブルを着せられ、
同じくアンサンブルの母、羽織着流しの父と、
近所の神社のだるま市に出かけた楽しい思い出があります。


あの忙しい正月準備の中で、家族の着物の支度をして、
きちんと全員に着せてた昔のお母さんて偉いな〜、と今になってつくづく感心。
小学校の入学式の写真を見れば、紫の着物に黒い羽織姿の母がしっかり写っていま
すし、当時は、授業参観に着物で現れるママさんも結構いましたよね。
公の場はお着物で、の意識がまだまだ残っていたのだと思います。


しかしながら所詮中流サラリーマン家庭だった我が家。
お正月のアンサンブルの他は、憧れだけで始めて2年でやめた日本舞踊での藤娘の
衣装、盆踊りにばあちゃんに着付けてもらった浴衣、成人式の振り袖、着物スキル
ははなはだ低い・・・。
馴染みがない分、憧れはあっても着物への敷居は高かったのです。


洋服と違って、着物一枚買ってすぐ出かけられるってもんじゃないわけで、
着物のほかに帯も買わなくちゃならないし、何やらいろいろ装備品もいるようだ
し、草履も、バッグも・・・と脳内計算機をポチポチしていくと莫大な金額に。


そもそも私、自分で着物着れないじゃん。
後ろで帯縛るなんて、曲芸にも等しい高等技能に思えるよ。
どうやったら着られるようになるの?
着付け教室?う〜〜ん、なんだか胡散くさいその世界。
ま、いつかね、いつか余裕ができたら。
と思っているうちに、すっかり年をとってとっくに四十を越していたのです。